“僕がこれから話すことは、役に立つことではありません。ただし、役に立てることはできます。よく「学校の勉強なんか実社会では役に立たないじゃん」というようなことを言う人がいますよね。でも、それは役に立たないのではなくて、役に立てることができないというだけです。(中略)僕がこれから話すことをそのまま聞いて、「ああ、役に立つな」なんて思わないでください。役に立てるにはどうしたらいいかを考えてください。”
学校では教えてくれない本物の知恵を伝える白熱授業「 17 歳の特別教室シリーズ」の最新刊、京極夏彦の『 地獄の楽しみ方 17歳の特別教室 』(講談社)をご紹介。冒頭は「はじめに」の引用である。
本書は 2019 年 7 月 27 日に講談社で一般公募の 15 ~ 19 歳の聴講生 50 名を対象に行われた特別授業を構成したものだ。京極夏彦と言えば分厚い本が代名詞だが、本書は小説ではないため厚みも 1.5 センチほどと普通。地獄のようなこの世を生き抜くための「言葉」徹底講座、と紹介されているとおり、「言葉」についての話題が中心となっている。
言葉は伝わらないものである。普段何気なく使っているが、私たちの抱く気持ちは単純ではなく様々に入り混じったものだからだ。
私たちは相手に気持ちを伝えるため言葉にする。だが言葉は自分の気持ちの一部を抽出したもののため、切り捨てている部分がどうしてもでてくる。それでも特に問題が起きず、話が通じているため相手に伝わったと私たちは勝手に思っているが、実際は相手は自分とは違う受け取り方をしている可能性がある。
「言葉は不完全」「人は言葉の欠けを勝手に補完する」・・・ SNS の炎上が度々話題になるが、言葉について今一度改めて考える必要があると認識させられる。言葉の欠点を意識するのとしないのとでは言葉との向き合い方も大きく変わるだろう。
その一方で、「あらゆる読書は誤読」とし、小説は読み手がどう受け取るかは自由、多様な読み方ができる方が良く、誤読されるのも見越した上という京極夏彦のスタンスは、作家の実力があってこそのものだと感じた。流石は大御所作家である。
「夢」「絆」「愛」。キャッチコピーなどでよく見かけるが、心地の良い言葉は要注意。きれいで単純な一言で何か誤魔化そうとしているのかもしれない。自分で言葉にするときは他の表現がないか考え、よりぴったりとした表現を探す必要があるとのこと。そのため、語彙を増やすことの重要性が語られている。なお、本を読むのは楽しいとする京極夏彦、書くのは嫌いだとのこと。あんなに長い小説を書いているのに、である。
なお、巻末のQ&Aは聴講生とのやりとりになっているのだが、こちらも面白い。特に本の収納の話は読書家必見。本棚を前後2段にする前に、横積みにする前にまだやれることがある。
繰り返し読むと又理解も深まる。ぜひじっくりと読んでみて欲しい。おすすめ!