英語に対しての苦手意識が抜けない。
文法でがちがちに語られると一気に拒否反応が出てしまうのは学生の時からだ。英文和訳で意訳し過ぎと注意されたのも一度や二度ではないと記憶している。
だが、今回手にとった『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくま文庫)はそれでも内容が面白く、大変引き込まれた。序章で意訳と翻訳と英文和訳の違いも丁寧に紹介されており、なるほど、と納得した次第である。
そもそも翻訳とは何なのだろう。問われて最初に思い浮かべるのは、おそらく「他言語を自分たちの言葉に移すこと、書き換えること」だろうか。
そうなると当然、まずは原文をよく読まなくては最初の一歩も踏み出せない。しかし、実際に言語を置き換えようとしてみると…
著者によると、訳者というのは、まず読者であるということ、翻訳というのは、「深い読書」のことだという。
“よく読めれば、よく訳せる”、と本文にも出てくるのだが、原文を深く理解し、自分の中で消化していなければ真の意味での翻訳にはならない。
“翻訳とは言ってみれば、いっとき他人になること”。共感であれ、反感であれ、作中に登場する人物へ深く寄り添おうとする姿勢が大事で、翻訳の質にも大きく影響するということのようだ。
本書では名作絵本『The Missing Piece(ぼくを探しに)』を題材に、特別授業で翻訳に挑戦する子どもたちの様子が紹介されている。それぞれの班に分かれ、辞書を片手に翻訳に挑戦する子どもたちの様子は、慣れない英語に悪戦苦闘しながらも、みんなと相談しながら、そして自分たちの想像力をフルに働かせて、とても生き生きとしていた。
作者の予想を超えた訳を次々と出してくる小学生ならではの柔軟性が読んでいて本当に面白い。主人公の一人称「It」をどう訳すのか? 各班に分かれた小学生たちそれぞれの翻訳にぜひ注目してみて欲しい。
なお、この特別授業を受ける子どもたちには、事前に「わたしは世田谷線」という作文の宿題が課された。実際に翻訳していく前に、登場人物に深く寄り添うための想像力をウォーミングアップするためである。
無機物の気持ちになって書く、という少し難しそうなお題だったのだが、お客を乗せて走る電車の気持ちになってみたり、世田谷線の歴史を一人語りのようにしてみたり…同じ題材でも様々な視点が登場したところに小学生の想像力の豊かさを感じた。
こんな翻訳授業をもっと早くに受けていれば、英語が好きになっていたのかもしれない。おすすめ!