あけましておめでとうございます。新年最初にご紹介するのは、『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)。
本書に収録されているのは5つの短編小説だ。各章の主人公たちは、みなそれぞれに悩みを抱えているのだが、様々ないきさつから、町の小さな図書室を訪れることになる。
訪れた図書室で、まずカウンターの受付をしているのぞみちゃんに声をかけてみると、レファレンスは奥へどうぞ、と勧められる。案内された先に向かってみると、そこにはとても大きな司書の小町さんが。見た目はベイマックスのようと紹介されていたのだが、一体どんな人なんだろうと興味をそそられる。しかも小町さんは羊毛フェルトに没頭中。ちくちくと針を刺している姿が最初は不愛想で何だか話しかけづらい…だが、「何をお探し?」と小町さんに問いかけられて空気が一変。まるですべてを包み込んでくれるような不思議な声をしているのだ。利用者の要望を聞いた小町さんは、素早いタイピングで本を何冊かピックアップしていってくれるのだが、なぜかその中にはリクエストと関係のなさそうな本も入っている。小町さんの出してくれた選書のリストと「本の付録」(自分の作った羊毛フェルトのことを小町さんはそう呼んでいる)を受け取り、間違った本が入っているのだろうか、といぶかしみつつ本を探すことになるのだが…
小町さんのピックアップする意外な1冊は、いつも主人公たちに次の一歩を踏み出すきっかけと勇気を与えてくれる。だが、小町さんはいつも謙虚だ。本を読んだ人が自分で本からヒントや手掛かりを見つけている、というスタンスに好感が持てる。そして、そんな小町さんに感謝し、少しずつでも前に進もうと努力する主人公たちのひたむきな姿に何度も心打たれた。
作中に登場する羊毛フェルト、私も実際に作ってみたことがあるのだが、無心で針を刺し続ける作業は想像以上に根気がいる。自分の思う形になるまでに結構な時間がかかるのだ。だが、理想の形に少しずつ近づいていく面白さ、軌道修正をしたいと思った時に融通が利くところなどの魅力が羊毛フェルトにはあるように思う。そう、この物語に登場する悩める主人公たちの人生のように。
第1章に登場する意外な本は誰もが知る絵本の「ぐりとぐら」だった。物語でも触れられているが、読む人によって捉え方が違うと紹介されていたのが面白い。本書を読んだら、どんなお話の本だったかな? とぜひ自分なりに振り返ってみて欲しい。ただし、おなかが空いてしまったときはあしからず。その時は主人公のように自分でカステラを作ってみるのもいいかもしれない。
他の章に登場する意外な本も実在している本なので、気になったという方はぜひ巻末の【作中に出てきた実在する本】のページをチェックしてみて頂きたい。
疲れた心に勇気と希望を与えてくれる物語。少しずつ読もうと思っていたはずが、夜更かししてまで一気読みしてしまった。本が好きな方、本の仕事に携わる方は特に感じるものがあるはず。おすすめ!