“不可抗力だらけの駅員の日常を覗くことで、小さな悩みが吹き飛ぶ、すべての現代人必読の社会派エッセイ”。
帯でそう紹介される本書タイトルは、『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)。タイトルがすでに駅員の苦労を物語っているが、決して駅員の苦労話だけを扱っているわけではない。知っているようで知らない駅の裏側は利用者からは見えていない駅の違う側面を知れて面白い。また、著者が日々過ごす中で見つけた小さな気づきや働く上での考え方、心得などは鉄道にあまり興味のない私にもなるほど、と思えるような、日々の生活のヒントを示してくれている。
著者が最初に配属された駅は一日10万人が利用する駅。通勤客で混み合う改札、駅員はポツンとひとり。これだけでめまいがする心地だが、インパクトの強かった話をいくつか紹介してみる。
「苦情が電車に乗ってくる」。パンチの効いたサブタイトルだ。今すぐにでも逃げ出したい。
乗客に声をかけられた著者。駅案内かと話を聞いてみると、離れた駅のクレームだったそう。なぜ他の駅で感じた不愉快をここで? この時は事実関係確認の上で、再度お詫びの連絡を該当駅からする段取りになったようだ。
著者は言う。同じようにこの駅での苦情が、他の駅に寄せられているかもしれない。苦情が大事にならないよう、うまく話をまとめてくれているかもしれない・・・駅はチームプレーで、鉄道会社全体を見渡す必要がある。著者の冷静な視点に好感が持てる。
急いでいるんだけど、と客に急かされる。たまに見かける光景だ。この時は特急券の発行に焦った結果、普段しないようなミスをしてしまいやり直しになったそう。余計に時間がかかる。当然客は怒る。悪循環だ。
著者は、先輩から急いでいるお客様に対しては逆にゆっくりと対応するよう言われていたことを思いだす。ゆっくり、というのは普段やっている作業を確実にこなす、ということ。やり直したせいでかえって時間がかかってしまっては本末転倒。普段の自分を顧みて、気を付けなくては、と姿勢を正した。
かなり厄介だな、と感じたのはICカード絡みのトラブルだ。利用者には便利なのだが、対応する駅員にはかなりネックになっているように感じた。タッチ一秒順守は些細なトラブルを未然に防ぐ。特にスマホに搭載したICカード機能に関わるトラブルは読んでいるだけで疲れてしまった。なんでも機能を一つにまとめれば便利なのだろうか? リスク分散、あえて分けるという考えも大事なように思う。
ひとまず、スマホでなんでも済ませようという人はバッテリーは自分のためにも常備しておくのが安全だろう。
第4章の修羅場十選は特に読んでいてハラハラした。こんな場面には居合わせたくないと思うものばかりであるが、どうやってその場面を著者が切り抜けてきたのか、ぜひ本書で確認してみて欲しい。
駅員の視点が良くわかる良質エッセー。駅員の視点を知ると、マナーの良い利用者でありたいなと強く思う。おすすめ!