あなたは人体について、果たしてどれくらいのことを知っているだろう?
今回ご紹介するのは『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(ダイヤモンド社)。医学という学問の魅力がたっぷり収録された一冊である。
体重が50キロの人の場合、頭は5キロ、足は一本あたり約10キロ、腕も一本あたり4~5キロほど・・・と聞くと、私たちが普段、いかに人体という重たいものを意識せず運んでいるのかということに驚く。優秀なことに私たちの体は生まれてから今まで、自分の体を運ぶのに必要なだけの筋肉を自然に鍛えてしまうのである。宇宙飛行士が久々に地球に戻ってきて、地上でうまく歩けない・・・という様子の映像を見たことがあるかもしれない。これは重力のない宇宙空間で長らく自身の体の筋肉を使っておらず、体を支えるだけの筋力が衰えてしまったからにほかならない。
なお、医療現場では患者を他のベッドを移したりする際、四、五人がかりでやっと一人の患者を移動させる。私たちは自分の体なら特に意識せず体を運ぶことができるのだが、人の体となるとそうはいかないのだ。特に驚くのは、重たい手足は胴体と狭い面積でしかつながっていないために、慎重に扱わないと瞬く間に関節を痛めてしまう可能性があるということ。人の体を運ぶ際には、細心の注意が必要なのである。
私たちの面白い体の機能に、「明順応」「暗順応」というものがある。明るい部屋から急に暗い部屋に入ると、真っ暗で何も見えず、目が暗闇に慣れるまでに少し時間がかかる・・・というのはおそらく皆さんも経験したことがあると思う。また反対に、暗い部屋から明るい部屋に出ると最初は眩しくて目が開けていられない・・・と感じたこともあるのではないだろうか。それぞれ、明るい場所に目が慣れるまで(「明順応」)にはおよそ5分、暗闇に目が慣れるまで(「暗順応」)には30分程度、時間がかかると言われている。
映画などに登場する海賊が片目に眼帯をしている理由は、一説には暗順応を維持するためと言われているそうだ。眼帯を少しずらせば明るい甲板から暗い船倉に入っても目が使えるというわけである。万一戦闘になったとしてもすぐに対応ができる、ということを考えているのであれば、大変合理的な判断をしていると言える。
どの章も大変読み応えがあるのだが、第3章「大発見の医学史」では現代の発達した医学のありがたみを実感する偉人の話が収録されている。
消毒を広めた外科医の話では、手洗いが当然ではなかった時代の、今では考えられないような現場の実態が紹介されている。
また、今も外科手術で欠かせない麻酔については、当初麻酔として応用できないかと目をつけられたある意外なものが紹介されていた。ある意外なものとは・・・? なお、外科手術は麻酔がなかった当時、激痛に耐えながら行われるものだったそう。麻酔のある現代に生まれてよかったと心から思う。
平易な表現でわかりやすく解説がされているため、人体及び医学を楽しく学ぶことができる。ぜひ人体の不思議をあますところなく楽しんでみて欲しい。おすすめ!