クイズ番組などでよく「間違いやすい日本語」として、 A と B 、どちらの言葉・慣用句の使い方が正しいか?という二択の問題を見かける。日常では A を使うが、本当の意味は B 。今は多くの人が誤った使い方をしている…そんな解説を聞いたことがある方も多いのではないだろうか。
しかし、今回紹介する『 つまずきやすい日本語 』(NHK出版)では、冒頭次のように紹介されている。
「「間違いやすい日本語」と言ってしまうと、ことばには「正解」「間違い」があることになります。でも、学校のテストと違って、実際の生活の中で使うことばには、「これを覚えておけば、常に正しい」という、絶対的な正解はありません。同じく、絶対的な間違いもありません。(中略)この講座では、「間違いやすい日本語」を示すことはできません。むしろ、あらゆることばが、ある場合には正しく、ある場合には間違いになってしまうという、その難しさを考えていきたいのです。」
本書のタイトルにある通り、私たちは言葉でよく「つまずく」。
例として取り上げられていたのはある嫁と義母のエピソード。中華料理を取り分けてくれた義母に嫁がにっこりと笑って「抜け目のない方」と言ったことで義母は頭が真っ白になってしまったのだそう。
嫁が義母に嫌味を言ったのかと思いきや、事実はそうではない。嫁は義母に良い意味で「抜け目のない」という言葉を使っていたのである。著者によると、「抜け目のない」という言葉には、元々「ずるがしこい」といった悪いニュアンスが含まれているのだが、その一方で、最近のスポーツ記事などでは「抜け目なく点を取る」、と言ったように「手ぬかりなく」といった悪くないニュアンスで使う場合も多くなってきたのだという。今回の嫁と義母のエピソードは、ニュアンスの受け取り方が違ったために行き違いが生じてしまったのである。
言葉の世代間ギャップによって発生した行き違い。だが、本来ことばは時間とともに変化するものである。高校で習う古文がいい例だ。平安文学の「うつくし」は、「美しい」ではなく、「かわいらしい」の意味だとご存じの方も多いと思う。言葉は時間をかけて変化して行く。変化することこそが言葉の本質なのである。その上で、厳密ではない言葉とどう付き合っていくのがいいのか? 本書を読み進めていくと改めて考えさせられるだろう。
本書ではいくつもの行き違いの例が紹介されているが、中でも興味深かったのは方言の章。先生に「教科書を立ててください」と言われ、生徒たちが取った行動とは…? そもそも方言と気づいていなかったために相手が勘違い、ということが多々ありそうな例が他にもあげられている。詳細は本書をご確認頂きたい。
辞書編纂者である著者の、言葉に対して慎重に、かつ真摯にあろうとする姿勢が伺える。
興味深い辞書の歴史なども必見!