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映画を早送りで観る理由とは? 2022.6.7

6月号 2022.6.1
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/

映画を早送りで観る理由とは?

 映画やドラマ、アニメがネットで配信され、手軽に視聴できる環境になって久しい。月額の定額プランで作品をいくらでも見放題とは、作品を一本ずつDVDやビデオでレンタルしていた頃を思うと、随分利用者に優しい環境になったなと思う。

 そんな便利な配信サービスだが、最近は再生速度を倍速、または10秒送り・10秒戻しの機能が搭載されている。見逃した箇所を見直すにしてもなかなか細かい機能だな、などと私は思っていたのだが、どうやら思っていた使い方とは違っていたらしい。

 

 今回ご紹介する本は『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)。

 本書によると、倍速視聴、10秒送り視聴を使って、初見から情景描写などを飛ばして映画やドラマを視聴する人が増えているのだという。なお、これは若い人たちに限った話ではない。

 習慣のない者からすれば、作品の細かな心象描写が拾えない恐れがあり、本当の意味で作品を味わえないのでは? と疑問に思ってしまうのだが、彼らは作品を味わうために映画やドラマを観ている訳ではないのだという。

 

 なぜ、彼らは倍速や10秒送りで映画やドラマを観るのか。理由のひとつに仲間内の話題に乗り遅れないようにする、ということがあるようだ。

 人との話題についていくため、どんな話なのか知っておきたい。だが、全てに目を通していたのでは、時間がいくらあっても足りない。タイパ(タイム・パフォーマンス)、コスパ(コスト・パフォーマンス)を彼らは重視する。

 “ファストフードの機械的な早食いや、咀嚼を省略した食物の流し込みと変わらない”、とは本書にも登場する表現である。彼らは作品を鑑賞しているわけではなく、コンテンツを消費しているのだ。

 

 作品の本来想定している楽しみ方ではないため、制作者サイドの嘆きの声も本書では聞こえてくるが、このような視聴のされ方は、忙しすぎる現代人のとりまく環境、常に友人や知人と繋がれるようになったSNSの普及がどうやら深く関係しているようだ。

 

 本書の面白いところは、取り上げられたそれぞれの議題が現代社会の抱える問題に集約されていくところにある。また、変化する視聴者の事情に、制作者に創作とは何か? を改めて問うものでもある。

 大変興味深い1冊だった。おすすめ!

<今月の私の一冊>

〈洗う〉文化史 「きれい」とは何か

【吉川弘文館】

国立歴史民俗博物館、花王株式会社/編

 2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちは清潔と洗浄について改めて見直すきっかけを得た。
 私たちはなぜ「洗う」のか。
 本書は国立歴史民俗博物館と花王株式会社で、「清潔と洗浄をめぐる総合的歴史文化研究」というテーマのもと行われた2017年~2022年の共同研究をまとめたものである。
 洗うという行為は、『古事記』などの古い文献にもたびたび登場する。黄泉国を訪れたイザナギが穢れを禊祓(みそぎはらえ)した際、目と鼻を“洗って”天照大御神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つくよみのみこと)、建速須佐之男命(たけはやすさのをみこと)の三貴神を生んだ。このような「洗浄という行為」、「清潔という感覚」、二つの軸を歴史的な視点から古代~近代にいたる文献資料や、現在にいたる民俗伝承資料を分析し、日本人にとっての「きれい」とは何かを考える。

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫  生駒店 社員 籠谷淳一

 近頃、世の中のニュースときたら碌な物がない。コロナに戦争、数えるときりがない。昨今ではそういった事を題材にした書物が数多く出版されている。退屈な毎日に刺激を求めたくなるのは人間の性である。だが、当事者になりたいと思う人はいないだろう。書物とはそういった一見矛盾した願いを叶えてくれる数少ない手段の一つである。私自身、何かが起きる事を心の何処かで願っている。そんな考えは異常なのだろうか。それとも今の世ならそれが正常なのだろうか。そんな事を考えつつ今日も読書に耽る。 

Chat&Chat

 過ごしやすい気候になってきたなと思った矢先、急に暑くなってきました。なかなか寒暖差に体がついていきません。
 寝苦しい夜だったせいか、倒れてきた本に押しつぶされるという夢を見ました。正夢にならないように本を整理しなければ、と気を引き締めなおした今日この頃です。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

おすすめ児童書

あめふりうさぎ
【新日本出版社】

せなけいこ/文・絵

 大雨の日生まれたうさぎがいました。なぜかこの子が泣くと雨が降るんです。
 かぜをひいて遠足に行けなくなってしまったうさぎ。ともだちは雨が降るんじゃないかと心配します。晴れてくれるかな~。
 うさぎたちは困ったりうれしかったり、表情豊かでこちらも思わずにっこりします。

外商部おすすめの奈良本

律令国家前夜
【新泉社】

前園実知雄/編
6月2日発売予定

 三輪山を望む地に成立したヤマト政権は、推古天皇の時に王宮を飛鳥に遷した。三輪山信仰から新しい信仰へと踏みだし、やがて仏教を掲げて律令国家「日本」へと向かう。厩戸皇子の幻の斑鳩京をはじめ王家の皇子たちが命をかけ、それぞれの理想の国を追い求めた飛鳥時代を考える。

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