6月号 2025.6.2
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
思わずどきどきしてしまった。まさに書店店頭で本を手に取り、一体どんな本だろうかとまえがきを立ち読みしていたときに、この一文が目に飛び込んできたのである。
“もし、あなたがいま、この本を書店の店頭で立ち読みしているのなら、本書のもくろみのいくらかはすでに達成されたということになる。”
紙面の向こうで著者が笑っているのが見え、大人しく本書をレジに持って行くことにした。
今回ご紹介する本は「立ち読みの歴史」(ハヤカワ新書)。
皆さんはどんなとき本屋に立ち寄るだろう? 欲しい本があるときはもちろん、別に欲しい本がなくても、なんとなくお店にふらっと立ち寄るという方も多いのではないだろうか。欲しい本があって店に来たはずが、並んでいる本に目移りして予定外の本も買ってしまう――というのは私の話だが、これも共感を得られるところではないかと思う。
だが、昔の本屋は今とは随分お店の様子が異なっていたようだ。
江戸時代の本屋は商品が奥にしまわれており、そもそもお客が本を自由に手に取れる状況ではなかった。欲しい本があるときは店の人に声をかけ、わざわざ奥から目当ての本を出してきてもらう必要があったのである。
本屋での立ち読みはいつ、どのようにして日本で広まったのだろう?
元々国立国会図書館でレファレンス(利用者の要望に応え、調べもののサポートを行うサービス)を担当していた著者が、様々な文献を駆使し、この謎を解き明かそうとしている。
江戸時代から明治期、本は高価なものだった。そのため、庶民は都心部を中心にもっぱら貸本屋を利用して本に触れていたようだ。文字の読み書きができる庶民の割合も都市部と農村部では開きがあり、本の読み方も音読が主流で黙読は少数派だった。本の体裁も現在とは異なる。和書は基本平積みで、タテ置きができない。一冊一冊の本を棚から自由に出し入れできるようになるのは、背表紙に文字が入った現在の洋本が登場してからの話である。
また立ち読み、という概念が登場するまでにも様々な変遷を経ているのだが、立ち読みが万引きと並んで悪、とされていた時代があったことにも注目したい点だろう。
このように現在の店頭での立ち読みスタイルが確立するまでには、様々な条件をクリアする必要があった。
マンガを立ち読みしているドラえもんが、はたきを持った本屋の店主ににらまれている表紙が本書に登場するのだが、店頭で長時間立ち読みをしているとはたきをかけられる、というような共通認識はいつ頃登場したのか? また立ち読みに関する暗黙のルールはいつ頃確立されたのか? なども本書では言及されている。
現代では当たり前となった「読書環境」や「本」のあり方は時代の変遷を経て今の形に落ち着いている。ふらっと本屋に立ち寄って、気になる本を手に取り、内容を吟味する――そんな現代の環境がありがたく思える一冊だ。
「科学メガネ読本」
【アノニマ・スタジオ】
池内了/著
宇宙物理学者の著者が、日常を「科学的に見る」楽しさを教えてくれる科学エッセー。科学にまつわる知られざる逸話が多数収録されている。
例えば、「旨いものは別腹」って本当?
満腹でもう何も入らない、と思っていたのに、いざデザートを出されたら、ぺろりと平らげてしまった……皆さんにもおそらく経験があるのではないだろうか。
お腹の満腹状態というのは、胃が本当に食べ物でいっぱいの場合と、実際は腹八分目にも関わらず、脳が満腹だと認識している場合の二種類があるそうだ。実はどちらの場合でも別腹は存在するそう。本書ではその科学的根拠が示される。
収録されている話の中でも、失恋したハエがやけ酒に走る話。そして、シマウマの縞模様が吸血昆虫との攻防に一役買っている、という話が特に面白かった。
まずは気になる題材をチェック。そこから読み進めてみては?
≪今月の担当≫ 生駒店 社員 𠮷田晏菜
本屋で働いているので毎日目にするたくさんの本。 新刊を品出しするときに大事にしている絵本「ほんちゃん」の事を思い出す。 ほんちゃんは本の国の子どもで、本になるまでのおはなし。 「本を大切にしよう」という気持ちになる。 どんな本になりたいか、どんな本ならずっと大事にしてもらえるのか…。 今日棚に並ぶほんちゃんたちに「大事にしてくれる友だちに出会うんだよ」と考えながら、本と人との出会いにワクワクした。
本を入れるための収納箱を買いました。が、買っただけで終わっています。いつまで経っても本が片付きません。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『おさんぽおさんぽ』
【福音館書店】ひろのたかこ/作
雨上がり、青い長ぐつをはいておさんぽに出発! だんごむしさんもありさんもおさんぽしてる。 そして水たまりにバシャ、バシャ。やったことある?
足元をクローズアップした絵本。かわいい足元が生き生きと元気に動きます。
外商部おすすめの奈良本
『道の駅から地域創生 古都華の聖地・平群』
【奈良新聞社】中山悟/著6月10日発売予定
奈良県職員として45年にわたり、農業・文化・観光、国際交流、地域振興事業などの地方行政に携わり、その後のコロナ禍のなかで所長として道の駅「大和路へぐり」の改革に取り組みました。これまでの活動と成果が、地域活性化のヒントと展望を提起し、奈良県の様々な地域資源と人財を生かした経営戦略になり、「奈良の未来を創る手引書」となればとまとめました。
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