今回ご紹介するのは、「建築トリック謎解きガイド 難事件は不思議建築とともに」(エクスナレッジ)。
ミステリ小説をこよなく愛する一級建築士の著者が、ミステリ小説に登場する窓のない部屋は本当に作れるのか? 完全な密室は実際可能か? などの疑問に建築士の視点から真面目に考察する一冊だ。
外の様子が伺えない、一見出入り不可能に見える部屋の中で起きる不可解な事件…そんなミステリ小説で定番の窓のない部屋を実際作るには?
まず、私たちが広く部屋、と呼ぶ建物の区画は、「居室」「非居室」の二つに大きく分けることができる。
居間や寝室、台所や書斎――人が生活をするため継続的に使用する部屋は「居室」と呼ばれ、窓の設置(窓の大きさの比率)、人が快適に過ごすための環境を整えるよう細かく規定が設けられている。
一方、玄関やトイレ、洗面所など継続的には使用しない部屋は「非居室」呼ばれて区別されており、窓の設置も求められていないのだそう。つまり地下の倉庫やワインセラーであれば、窓のない部屋を問題なく作れる、ということになる。
だが、「居室」での窓なし部屋に拘るとなると、難易度が上がる。
工事着手前の設計図面による建築確認、建物完成後の完成検査…これらの検査をかいくぐり、「窓のない部屋(居室)」を忍ばせるのは現実的にかなり難しい。しかし、それでも建築関連の知識が豊富な犯人が、知恵を絞って秘密の空間を作り上げる方法を考えるとしたら・・・
緻密に練られた計画の最後、確かに、と納得してしまう結末が用意されていた。詳細は本書の間取り図を眺めながら、楽しく確認してみて欲しい。
断崖絶壁、はたまた人の寄りつかない孤島にそびえる館・・・ミステリ小説でおなじみの舞台設定だが、実際そんな場所に立派なお屋敷を立てることは可能なのか? 孤島の館を実際作れるかを検証してみる。
著者はまず館のインフラ設備に注目する。電気は太陽光を基本利用するとしても、悪天候などで状況が左右されやすい発電方法では十分とは言えない。予備電源としてガソリンで動く発電機の用意は必須だ。そうなると本島からガソリンは定期的に運んでこなければならないことになる。さらに、周りが海に囲まれた孤島という立地条件から、飲み水などの生活用水をどうするかも考えなければならない。都合よく使える湧き水が地下から出ればよいが、そうでなければ本島から海の下にずっと水道管を通してくることになりそうだ。
さらに実際工事を進めるとなると、工事関係者の僻地までの通勤事情も考えなければならない。当然資材を運び込むのも苦労するが、建設資材に欠かせない“あるもの”が一番ネックになると判明し・・・・
今度から孤島にそびえる館の主を見る目が変わりそうだ。お金も時間も存分にかけた館が変わっていないはずがない。
かなり専門的な解説も一部含まれてはいるものの、可愛いイラストと分かりやすい図解が読者の理解を手助けしてくれる。
各章のテーマに沿って、実際のミステリ小説も紹介されているところがブックガイドとしてもありがたい。読了済の本を見つける度、まだ自分の知らない本を知る度、ミステリに触れたくなってくる。
なお、普段から図面を読み込んでいる著者は、図面の違和感から謎に気づいてしまったことがあるようだ。本書読了後は、ミステリ小説の挿絵についている図面の見方が少し変わる? かもしれない。