先日芥川賞・直木賞の受賞作が決まった。
芥川賞は半年に一度受賞作が選出される日本で一番歴史の長い文学賞として知られている。だが、100年近く続く芥川賞の「歴史」を知る人は意外に少ないのではないだろうか?
今回ご紹介の『タイム・スリップ芥川賞 「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』(ダイヤモンド社)のプロローグは、著者のそんな投げかけから始まる。著者は『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』で知られる菊池良氏だ。
本書の構成は、普段小説を全く読まない少年が、文学好きで少しおっちょこちょいな科学者のおじいさんに連れられて、歴代芥川賞受賞作家たちの当時の様子をタイム・マシンでのぞきに行く、というストーリー形式になっている。
作家たちに干渉して歴史改変にならないように注意しながら、少年とおじいさんは時代を超え、各時代の作家たちが集う場所へと向かう。作品の生まれた時代に行くことで、時代背景や作家の人となり、交流関係などを知り、少年は少しずつ作品への理解を深めていくことになるのだが・・・
一番初めに登場する芥川賞作家は石原慎太郎。芥川賞受賞作である「太陽の季節」の太陽とは太陽族のこと――と聞かされても、いまいちピンときていない少年に、おじいさんは俳優で弟の石原裕次郎との話も絡めて解説を加えていく。途中、うっかり石原慎太郎本人と顔を合わせてしまうようなひやっとする場面も織り交ぜつつ、楽しく石原慎太郎を知ることのできる話になっていた。
なお、本書ではほかにも有名な芥川賞受賞作家が数多く登場しており、芥川賞が欲しくても取ることができなかった太宰治のエピソードなども紹介されている。落選が決まった時の太宰の姿が見ていられない。
また、紹介されているのは歴史的な文豪だけではない。現代でも活躍中の作家も多く取り上げられているので、ぜひご確認頂きたい。
芥川賞は文学的な要素が強く、どうしても最初のとっつきにくさを感じて…という方でも気軽に読める。
本書をきっかけにもっと作品のことをくわしく知りたい! と思われた方は、作品の大まかなあらすじがコラムにまとめられているのでこちらを参考にしてみてほしい。
「書かれた文学は作品として残り、それを読んで刺激を受けたつぎの世代が、またそのつぎの世代に読まれる作品を語りついでいく」とする本書の一文が、これまでの文学、そしてこれからの文学について読者に考えさせる。
面白くてつい一気読みしてしまった。おすすめ!