今回ご紹介する本は『ダチョウはアホだが役に立つ』(幻冬舎)。著者は「ダチョウ抗体マスク」の開発者で「ダチョウ博士」の塚本康浩氏だ。インパクトを与えるタイトルは事実なのだろうか? その内容に迫りたい。
皆さんはダチョウに対してどんなイメージを持っているだろう? 足の太さや速さが真っ先に浮かぶだろうか。
元々ダチョウは恐竜から進化したと言われている。そのため太い足の形は恐竜と似ている。足の早さは二足歩行する動物の中では最速。つぶらな瞳に騙されそうだが、その気性は意外にも荒い。思いがけず強烈なキックが飛んでくることがあるそうで、著者は何度も骨折を経験しているとのこと。本書では著者が日々、ダチョウを観察していて気づいた様々な点があげられている。
著者いわく、どうやらダチョウは何も考えていないのだという。1羽のダチョウが走り出すと、特に目的もなく他の仲間もつられてついて行ってしまう。勢いよく集団で走っていった先は崖の上。当のダチョウたちはビックリして恐怖で固まってしまって動けなくなったり、あるいは崖で止まりきれず、勢いそのまま崖から落ちてしまうこともある。その度に呆れつつも著者はダチョウの救出に向かっているようだ。
一般的に鳥はケガに弱い生き物だ。セキセイインコなどは数滴血が出ただけで命が危険になることもある。対してダチョウは痛みに鈍感。仲間内でのつつき合いで血が出ることなど日常茶飯時、加えてダチョウの血のにおいを嗅ぎつけ、やってきたカラスが図々しく肉をついばみはじめても、知らん顔で平然と自分のエサのもやしを食べ続けるそうだ。カラスを追い払おうともしないというのだから驚きである。
そんな痛みに対して鈍感なダチョウだが、一方で驚異的な回復力も備えている。
体に穴があいて骨まで見えるようなひどい重傷でも死なないどころか、傷に薬をスプレーすれば数日で傷がふさがり、1ヶ月もすれば皮膚も再生されて元通りになるとのこと。調べてみるとダチョウの細胞は他の生物よりも素早く動く傾向があるのだとか。
この並外れた免疫力が注目され、今の医療にも応用されている。メスに無毒化したウイルスを注射すると、ウイルスに対する抗体が猛スピードで作られ、メスはその抗体を卵に送り込む。大きな卵にたっぷり抗体が含まれて産み出されたものを人間が加工し、ワクチン作成などに役立てているのである。その他、ダチョウ抗体マスクがなぜウイルスや花粉症などに有効なのかなど、気になる詳細についてはぜひ本書をご確認頂きたい。
なお、鈍感なイメージの強いダチョウだが、音に対しては神経質なところもある。
大きな音に驚いて、2組のダチョウの家族が入り乱れてパニックになったことがあったそうだ。しばらくして落ち着いた両家。だが、よく見てみると家族の組み合わせがおかしい。ペアが入れ替わり、子どもの数が変わっていても、ダチョウたちが気にしている様子は全くないとのこと。どうやら家族のことを覚えていないようなのである。そんなダチョウは飼い主である著者のことも当然覚えていない。著者によると、ダチョウの脳みそは目玉よりも小さくツルツルとのことなので、やむなしのようだ。
著者のあふれんばかりのダチョウ愛と、今後の医療に希望を与えてくれる楽しいエッセイになっている。興味のわいた方はぜひ。おすすめ!