今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、我々にこれまでの生活や、経済のあり方など様々なことを考えさせる契機を作った。
冷静な目で今回のような感染症について分析しようとした際、これまで人類が経験してきた歴史を振り返ることは今後の課題をクリアするための大きなヒントになるだろう。
本書『イラスト図解 感染症と世界史 人類はパンデミックとどう戦ってきたか』(宝島社)では、結核、麻疹、黒死病(ペスト)、天然痘、マラリアなど、度々人類を脅かしてきた多様な感染症が解説されると共に、人類と感染症の歴史が紹介されている。
人類と感染症の付き合いははるか昔、人間が狩猟中心の生活から定住生活へと切り替えたころまでさかのぼる。集合体が一か所に留まり農耕を始めたことで、農作物を溜めおくようになった。それにより食料を狙うネズミも呼び寄せられ、ネズミに付着したノミやダニから感染症が人へともたらされることになったのである。また、人が多様な家畜と共に生活するようになったことも大きい。先のネズミと同じく、家畜から人への感染ルートができたことも原因として挙げられる。
感染症の爆発的な流行は人口が最低数十万人を超えないと発生しない。だが人類が栄えたことにより、最初は小さな集合体であった村も人口が増加。それと共に皮肉にも感染症に悩まされるようになっていった。繰り返し人類を襲う感染症は、文明の発展によってもたらされた、ある種の「文明病」なのである。
また、感染症は人々の交流と共に運ばれた。シルクロードは他国の素晴らしい文化をもたらしたが、それと共に感染症も各国に運んでいる。
高い致死率と内出血により皮膚が黒ずんで見えることから恐れられた黒死病(ペスト)は、貨物に混じったネズミなどのげっ歯類を媒介に、シルクロードを通じて中国からローマ帝国へと運ばれたとされる。逆にヨーロッパからは一度かかると完治したとしても一生消えない痕が残るとして恐れられた天然痘や、麻疹がもたらされた。なお、天然痘は中国経由で日本にも流入し、奈良の大仏が建立されたきっかけともなっている。現在自然発生した天然痘は撲滅され、限られた研究室に厳重保管されているという。(兵器利用の危険があるとして今も処理について議論がされているが、こちらは解決策がまだ見出されていない状況である)
現在のコロナ対策に用いられている手法の一部は、昔からのノウハウや蓄積によるところも多い。あらためて見直すことで、歴史に学ぶところの多さを実感する。ただ著者も述べているように、幾度も危機に瀕しながら、人類は脅威に立ち向かい克服してきた。何かと暗い話題で気が滅入りがちであるが、本書は我々に一筋の光を示してくれている。