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日本の動物絵画史 2024.2.1

2月号 2024.2.1
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/

日本の動物絵画史

 かわいい子犬の帯に目をひかれて、つい手に取ってしまったのが、今回ご紹介する「日本の動物絵画史」(NHK出版新書)だ。本書では動物絵画を通し、人々が動物や動物の絵に対して抱いてきた「心」と、画家たちによる「造形」の歴史を考えていく。

 

動物の描かれた絵、と言われて真っ先に思い浮かぶ絵画はおそらく「鳥獣戯画」だろう。展示会でも人気で、愉快で楽しそうなウサギとカエルの絵を思い浮かべた方も多いのではないだろうか。

「鳥獣戯画」に描かれる動物たちは皆、まるで人間のようにふるまっているのが特徴だ。少し滑稽な、それでいて親しみの持てる動物たちの様子は見ていて楽しい。動物たちを破綻なく、人間のようなふるまいをしているように見せる描き方が見事だと著者は唸っている。

「鳥獣戯画」は、全四巻からなるが、元々セットとして作られたものではない。一人の画家によって描かれたものではなく、描かれた時代も異なっているというのが近年の調査による見解のようだ。

本書では有名な甲巻とタッチの異なる丙巻を見比べることができる。ぜひ違いを確認してみて欲しい。

 

人間の昔からの友、犬。犬を題材にした作品も本書では多く紹介されている。

例えば、見るものに独自の味わいを与える仙厓の禅画は、犬にも心があるかを問いかける。描かれている犬は杭につながれ身動きが取れないことを憂いているのか、どことなくしょんぼりとした様子だ。最後に書き添えられたのだろう「きゃふんきゃふん」の文字も相まって哀愁を感じさせる。私には心があるようにしか見えないのだが、皆さんはどう感じるだろう?

 

円山応挙の子犬の絵は、一目絵を見た瞬間ぐっ、と心をつかまれる。子犬たちは一匹一匹、表情と目が違っていて愛らしい。一匹だけ違う方向を見ていたり、こちらにおしりを見せていたり。他の兄弟の体に乗っている子犬はバランスを崩して今にも転がり落ちそうだ。

著者の解説によると、目の描き方をそれぞれ変えているというこだわりぶりだ。絵の向こうにいる子犬たちには躍動感がある。

 

日本の動物絵画は多彩だ。その背景には動物を畏れ、動物に祈り、動物を愛おしんできた人々の歴史があるという。

絵画と言うと、つい絵の見方や捉え方を考えて身構えてしまうのだが、本書では作者の描こうとした動物の愛らしさやひょうきんさが全面に押し出されたものが多数登場する。

 

芸術の観点から見た絵の評価ばかりがどうしても重視されがちだが、絵に描かれた可愛い、という価値観を素直に受け取り、楽しむのも一つの絵の味わい方のはずである。良書。

<今月の私の一冊>

豆腐の文化史

岩波新書】

原田信男/著

 私たちの日々の食卓に欠かせない豆腐。

 安くて栄養価が高く、料理への応用も効いて使い勝手良しと、家計の強い味方だ。

 元々中国発祥で、アジア圏内で広く食されてきた豆腐だが、どのように誕生したのか、いつ頃日本に伝わったのかといった詳細は不明だそうだ。今でこそパック包装や殺菌技術が進み、長期保存が可能となった豆腐だが、昔は日持ちせず、手間暇もかかる薄利多売の商売で苦労も多かったという。

 本書では文献に登場する豆腐を分析しつつ、様々な角度から豆腐の魅力に迫る。高級食材だった豆腐はいつ頃から庶民に親しまれるようになったのか? また、一口に豆腐といっても実に様々な種類が登場する。地域に根差した個性的な豆腐の紹介も興味深いので、本書でぜひ確認してみて欲しい。

 

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫ 学園前店 店長 松井典子

ずいぶん前のこと、本を譲っていただいた。

「古い本を読むのでしょ、私はもう読まないだろうからね、あなたに差し上げますよ」

調べものをする際に絶版になっているものを探すことがあるのだけれど、そのことがふんわり伝わった結果、ご自身が若いころにお読みになった本を私にくださったのだ。読んできた本は人となりを表す。軽い気持ちだったのかもしれないけれど、50歳以上年齢の離れた方がご自身の持ち物を預けてくれたことが素直にうれしかった。その後はあまりお会いする機会もなく、2年前に逝去された。本は、まだ私の本棚に並んでいる。本は定期的に捨てる派だが、この本はきっとこの先も私の本棚に並んでいる。諸々、こうやって残っていくのだなぁと思い、今日も本を読む。

Chat&Chat

 また栞をなくしました。確か先日読んだ本に挟んでおいたはず・・・と、記憶していた先を探してみましたが、見当たりません。

原因は明らか。積読と乱読です。果たしてこの本を読んでる途中に、今度は何の本が気になって何を読み始めたのだったか・・・?

 そのうち出てくるか、と開き直り、栞を探すのはあきらめてまた違う本を読んでいます。懲りません。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

おすすめ児童書

おおじしん さがして、はしって、まもるんだ

【岩崎書店】

清永奈穂/文・監修 石塚ワカメ/絵

 今年に入って大きな地震がありました。揺れたらどうしたらいいのでしょう。

 この絵本は、子どもだけで留守番をしているときに地震が起きる設定で始まります。

 自分ならどうする? 絵を見て考えてみるクイズがあり、イメージしやすいです。

 定期的に、繰り返し子どもたちと読みたい絵本です。

 巻末には、「地震から命を守るために知っておきたい5つのポイント」があります。

外商部おすすめの奈良本

紀伊山地はなぜ歴史の舞台になったか

【古今書院】

米家 泰作/著

2月16日発売予定

 地域はいかに形づくられたか?歴史地理学から紐解くシリーズ第1回配本日本の国土の半分は、山村が占めている。過疎化、限界集落、廃村の危機といわれるが、我々は山村をどれだけ知っているのか?奈良・京都の都の後背地として古くから重視され、現在では熊野古道などの人気スポットである紀伊山地を例に、山村の成り立ち、人と森林の深いかかわり、西行ら歌人や博物学者たちとの奥行きのある歴史、山岳宗教や修験道、山村の暮らし、焼畑と林業、そして近代以降の変遷を、歴史地理学から描く。

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