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古生物学の“布教”書 2019.9.2

9月号 2019.9.2
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/

古生物学の“布教”書

 帯に踊る「古生物学の“布教”書」の文字に魅かれ、思わず本書を手に取ってしまった。
 『知識ゼロでもハマる 面白くて奇妙な古生物たち』(カンゼン)。タイトルにある通り、古生物をこれから知る人に向けて書かれた本である。

 皆さんは古生物と聞いて何を想像するだろう。昔の生物で、恐竜、アンモナイト、三葉虫・・・といくつか具体的な例が思い浮かぶ方もおられるかもしれない。
 古生物とは何か。ポイントは二つである。
 まず一つ目は「地質時代に生きていた生物」であるということ。ちなみに地質時代とは、「人類の手によって歴史記録が残るよりも前の時代」のことを指す。文明の痕跡が確認されるよりも前の時代に生きていた生物のことである。
 もう一つは、「その存在の証拠として「化石」を残す」ということ。その生物が存在していたという証が必要なのである。

 化石が「太古に生きていた生物の遺骸」であると分かり、「地質学や生物学などの知識を使ってその正体を解き明かしていこう」という試みが行われるようになったのは、そう昔のことではない。古生物学が普及するまでに見つかった化石は、ドラゴンやユニコーンなどの骨として扱われることもあったそうだ。化石を怪異的なものと関連づける話は世界的にもよくみられるそうなのだが、面白い例が紹介されていたので次に見てみたい。
 一つ眼の巨人、キュクロプス(サイクロプス)。その正体とみられているのは、ゾウ類の化石である。
 古代ギリシアにはゾウ類はいなかった。そのため、古代ギリシアの人々は頭骨の額中央に開いている大きな穴を眼窩(眼球を収めるくぼみ)だと考えたようである。本書に図が掲載されているので、ぜひ見て頂きたい。おそらく私達はゾウ類の現生種を見ているため、その穴の正体がすぐに見抜けるはずだ。

 完全体であることが珍しい化石の世界。そのため博物館などで展示される標本については「レストア」(修復、補修、復元)されるのが日常的だ。失われた部分は近縁種などから類推され、補われる。現在私たちが博物館など目にする化石はほぼ「レプリカ」。だが、レプリカと聞いてがっかりするのは少し早い。レプリカのおかげで私たちは古生物のことを深く知ることができているのである。メリットは私たちが想像しているよりも大きい。詳しくは本書で。

 読むと実物の化石が見てみたくなる。優秀な“布教”書である。

<今月の私の一冊>

いきもので読む、日本の神話 身近な動物から異形のものまで集う世界

【東洋館出版社】平藤喜久子/著、ホリナルミ/絵 ¥1728

古事記、日本書紀、風土記から、いきものが登場する話だけを紹介するという、少し切り口の変わった書籍を見つけたのでご紹介。
因幡の素兎(しろうさぎ)が騙したワニを怒らせて皮を剥がれてしまう話は有名だが、ここに登場するワニは“鰐”ではなく、サメの仲間、もしくは海に住む想像上の動物だったのではないかと考えられている。また、童話で知られる浦島太郎、『風土記』では亀が姫であったという、少し違う展開を見せている。実は異類婚のパターンなのだと知って目からウロコだった。異類婚の話は他にもいくつか例があげられているので、ぜひ読んでみて欲しい。
コラム「神話に見当たらないいきものたち」も必見。今の私たちには身近なのに、なぜか神話に登場しないいきものがいる。ペットとして飼っている人も多いあの動物、海外の神話には登場するというのだが・・・?
神話に登場するいきものたちが、親しみやすいイラストと共に紹介されていて楽しく読める。もっと本格的に! という方は原文も掲載されているのでそこから掘り下げてみるのも良いだろう。

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫ 
生駒店 店長 松井典子

 突拍子もなく、本当に急に。突如それはやってくる。
 「そういえば、アレって何だっけ」
 アレの正体は様々で、言語だったり事象だったり、人物だったりする。
 諸々調べるのには、まずネット検索を使う。書店員なら本でお調べなさいよと、お叱りの声が聞こえる。私もそう思う。でもそれはダメ。危険。主に金銭面で。のめり込む性格だ。しかも温くなっても冷めない。迂闊に本に手を出すと、芋づる式にやってしまう。アレを調べるためにコレを読み、コレの理解を深めるためにソレを読み、ソレの最新の状況はどうなっているかなと論文類に手を染める。そうして暫くして、布団の上まで侵食してきている本や紙束の真ん中で「そもそものアレってドレだったかしら」とぼんやりと思うのだ。そしてこのコラムを書きながら、頭の片隅では考えている。アレを調べた時に読んだコレの著者の著作全集全34巻のことを…。

Chat&Chat

 先日、本の山が崩れてくる夢を見ました。慌てて飛び起きたところ、寝る前に読んでいた本が台から落ちているのを発見。夢でよかった、と思う反面、いや、正夢かもとしれないと、今も少し怯えています。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ(https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/)にて

更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

おすすめ児童書」「おすすめの奈良本」10月号は、9月下旬に更新予定です!お見逃しなく!

おすすめ児童書

おつきみうさぎ』【童心社】 中川ひろたか/文、村上康成/絵

十五夜にお供えするすすきを探しに出かけたピーマン村の子供たち。
すると、すすき畑の中に光るものが。よーく見るとそれは金色に光るうさぎでした。
ふるえるうさぎを園につれて行って世話をしますが・・・。
やがて十五夜になってまんまるお月様があらわれました。あれ?何かたりない。
お月見の季節におすすめです。

おすすめ奈良本
『奈良の寺々』 【吉川弘文館】 太田博太郎/著 9月15日頃発売予定

建築は基本的知識がないと美や良さを理解し難い。基礎用語と建物の構造を平易に解説した、鑑賞のための入門書。

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