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日本語のいまを考える 2023.5.1

5月号 2023.5.1
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/

日本語のいまを考える

 クイズ番組で言葉の使い方として正しいのはどちらか? といった出題をよく目にする。大体AとBの二択から選ばせるものが多いが、中には正答率が極端に低く、本来の意味とは違う意味で定着している言葉もあり、驚くことがしばしばある。

 考えるのは、本来の意味とは異なる意味で定着している言葉の使い方だ。正しい意味を知った以上、すぐに使い方を改めれば良いというような単純な話ではない。

 何故なら、言葉とは本来相手と意思疎通を図るためのコミュニケーションツールだからだ。自分一人が頑なに正しい言葉の使い方を主張していても、伝えようとする言葉の意味が相手に正しく通じなければ意味がないのである。

 

 今回ご紹介するのは「変わる日本語、それでも変わらない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま」(世界文化社)。

 「正しい」「正しくない」という観点から語られることが多い日本語。だがその実態を探ってみると、年齢層や地域によって、言葉の意味の捉え方には大きな幅があると分かる。

 本書では本来の言葉の意味を示した上で、現在の言葉の使われ方を世代や地域別にアンケートを取り、その言葉のおかれている現状を分析する。アンケートの集計結果はグラフで分かりやすくまとめられているので、目次で気になる言葉を見つけてから、まず集計のグラフを確認してみる、という読み方も可能だ。

 

 本書に登場する例をいくつか取り上げてみる。

 例えば「初老」という言葉。一体いくつくらいの人を指すのか、というアンケートの結果を見てみると「60歳くらいから」と答えた人が比較的多かったようだ。次に多かったのは「65歳くらいから」「70歳くらいから」とする回答だ。

 元々「初老」の平均年齢は40歳くらいの人を指していたのだが、アンケートで「40歳くらい」と答えた人はごくわずかだった。昔よりも寿命が延びた現代の結果が反映されていると言えるが、体力的な衰えの感じ方が個人によって異なることを考えると、「初老」という言葉をもう年齢で区切ること自体が難しい時代なのかもしれない。

 

 次にご紹介するのは和食などでおなじみの「おろし大根」、または「大根おろし」。

 サンマの塩焼きに添えれば、脂の乗った身をさっぱりとした後味にしてくれる名脇役でおなじみだが、このふたつの言葉はどちらを使っても間違いではない。ただし「大根おろし」の方は意味が少し広く、すりおろす器具の方を指すこともあるので、その点は注意が必要だ。

 なお、比較的若い世代では「大根おろし」しか使わない傾向があると聞いて驚いた。言われてみると「おろし大根」という言葉を最近あまり見かけない気もする。言葉を取り巻く環境は刻一刻と変化しているようだ。

 

 本来の日本語の使われ方を知った上で、日本語の多様性を知ることは、コミュニケーションにおける些細なストレスの緩和につながるだろう。相手への理解も進むはずだ。

 相手の立場に立った言葉の使い方、選び方を深く考えさせられた。日本語の奥深さを実感できる1冊。おすすめ。

<今月の私の一冊>

鳥肉以上、鳥学未満。 Human Chicken Interface

【岩波現代文庫】 川上和人/著

 「トリノトリビア」「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」などの著書で知られる著者の鳥肉(ニワトリに限らないため「鳥」の字)の解説書が文庫化された。
 鶏肉といえば豚肉や牛肉に比べて価格が安く、食卓に欠かせない身近な食材だ。だが、各部位の名称を知ってはいても、体のどの場所の肉か、と聞かれると途端自信がなくなる。マニアックな部位となると、いよいよお手上げである。
 本書ではニワトリは勿論、様々な種類の鳥の肉を取り上げる。肉がついている骨の構造、その形に至った歴史などにも触れているのだが、肉の部位一つ取っても物語があることに気づく。専門的な話だが、著者の軽妙な語り口にぐいぐいひき込まれてしまった。
 本書読了後、電柱に止まっているすずめや駅でたむろしているハトが気になって仕方がない。鳥肉で笑うとは思わなかった。良書。

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫ ジュンク堂奈良店 社員 小川岳志

 

面白そうな本を見つけると買って読みたくなるが、それを全部買っていたら切りが無いし、当然使える額にも限度がある。

「ちょっと高いかもしれない、無駄遣いかもしれない」と思いつつも、その一方では「この一冊の本が生み出されるまでには著者をはじめ、編集や校正、装丁など、何人もの人が関わり、数ヵ月から数年がかかっている。それだけの労力と時間をかけて完成した物がこの値段で買える。考えようによってはこの本は安い」とも考える。

そんな心の葛藤や、自分自身への言い訳が本を買おうとする度に繰り返されるのである。

Chat&Chat

 書評を読むのが好きです。気になる本があればチェック、さっそく店頭で実物を見てみるのですが・・・意外に分厚い!? 予想外の装丁!

 そんな小さな発見も、楽しみの一つにしています。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

おすすめ児童書

だじゃれべんとう

【佼成出版社】
岡田よしたか/著

 ふうちゃんの遠足の日、お父さんお母さんが起きてきません。寝坊です。
 お弁当ができてないよー。
 台所にあるフライパンやたくわん、梅干したち総出でお弁当を作り始めます。
 もちろん、だじゃれを言いながら。みんなもだじゃれを考えてみて。

外商部おすすめの奈良本

増補改訂版 奈良「地理・地名・地図」の謎古墳で読み解く日本の古代史

【実業之日本社】

5月10日発売予定

 
 本書は、平成26年(2014)2月に刊行した旧版の増補改訂版である。旧版では合計78本の謎を取り上げたが、今回は9年間の変化をふまえ、総本数は同じだが、旧版で取り上げられなかった12本の新たな謎を取り上げた。本書で取り上げられた「地理・地名・地図の謎」は、奈良県の長い歴史の積み重ねの結晶として現れてきたものであり、それは本文を読んでいただければ、よくわかっていただけるだろう。

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